月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「もうこれ終わったら帰るだけだから、良いでしょ?」

 あえて憎まれ口を叩くと、隣の主婦がすかさず突っ込みを入れてくる。

「なに言ってるの⁈ 帰り道でいきなりイイ男と出逢うかも知れないでしょ⁈ 運命なんてどこでどうなるか分からないんだから!」
「あ、ちょっと」

 その言葉に一瞬ヒヤッとして止めようとしたら、次の台詞で力が抜けた。

「諦めたらそこで試合は終了なのよ!」

 手元を見たら、この子もワインのビンを抱えていた。ためだこいつら全員出来上がっている。

「いいねー。イイ男と出逢えたらいいねー」

 相変わらず、朔は楽しそうだ。思えばこの子はいつも楽しそうに笑っていた。そして三年ぶりに会う仲間たち。みんなの姿を見て、なんだか私もほっとする。

「ちょっと私もすぐに追いつくから、そこの缶チューハイちょうだいよ」

 すっかり寛いだ気持ちになって、ビニールシートにどかりと座り込んだ。卒業してもこうして会える友達には、かなり素の部分が出てしまう。

「ツマミは? お腹空いているんじゃ無い?」
「タコ焼きと唐揚げ買ってきた」
「野菜っ気無いね、ほら枝豆」
「枝豆は豆だから野菜と違うって」
「緑だからいいでしょ?」

 相変わらず馬鹿なこと言って、笑い合って。お互いの近況報告して、ちょっとだけしんみりしたりして。

 そして楽しい会はお開きになった。



 ◇◇◇◇◇◇◇


 それぞれゴミを手に持ち、駅で別れる。

「よーし、解散ー!また会おうねー!」

 朔がそう言って去ろうとするから、私はつい呼び止めてしまう。

「朔」
「ん?」

 振り返り、こちらを真っ直ぐ見詰める彼女。そんな彼女を見返して、呼び掛けたくせになんて言っていいのか分からず口ごもる。
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