When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
 辺りに建物など何もない、深い森の中だった。水のせせらぎが聞こえた方を見れば、小さな川が流れているのが見える。

 ゆっくりと足を踏み出してみたが、土の中にヒールが埋まってしまい、それ以上前に進めなかった。

「だから言っただろう? 無理だって」

 ドアにもたれかかり、泰生が呆れたように言う。

「じゃあ車で送ってよ! ここまであんたが連れてきたんでしょ⁈ 責任持って家まで帰して!」
「俺が帰るのは明日だ。それ以外ここから出るつもりはない」

 悔しい。なんで泰生の言う通りにしないといけないの? その時ふと恵那の頭に考えが浮かぶ。

「そうよ。タクシーを呼べばいいんじゃない……」

 カバンからスマホを取り出そうとしたが、入っていないことに気付く。

「悪いがスマホは預からせてもらった。不倫相手からの着信やメッセージがうるさかったからな」
「返してよ!」
「探してみろよ。見つけたら返してやる」

 恵那はその場に座り込んだ。これじゃあもう何も選択肢はない。

 昨日から最悪の時間が流れてる。不安と苦しみと痛みが心の傷をより深いものにしようとしていた。涙が溢れ、恵那は嗚咽を漏らすほど泣き続けた。

 ようやく涙も枯れようかという時に、体が浮く感覚を覚え、恵那は小さな悲鳴を漏らして目を伏せる。しかし再び目を開けると、泰生の逞しい腕に抱きあげられていることに気付く。

「やめてよ……下ろして……」

 力なくそう呟くが、
「黙ってろ」
と言われて恵那は口を閉ざした。
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