When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
「あの……これってどういうことですか? だって指輪はしていなかったし……」

 すると女が彼を睨みつける。

「そう……指輪を外して独身を装ったわけ?」

 彼が気まずそうに視線を逸らしたため、女は視線を恵那に戻した。髪を引っ張り、顔を近付けると、見下すような目で見る。

「知らなかったじゃ済まないわ。私たちには子どももいるの! あんたのせいで、私たちが不幸のどん底に突き落とされたのよ!」

 冗談じゃない。小さな耳鼻科の受付、女ばかりの職場で出会いなんてないと思っていた時に声をかけられて、ちょっと嬉しかった。これで独り身ともおさらばって思っていたら既婚者だなんて有り得ない。

「そんな……! 私だって既婚者だって知ってたら、付き合ったりしませんでした! それに……ホテルに行ったのは今日が初めてなんだから!」

 騙されたのは私の方よ。結婚してるなんて知らなかった。

 しかし恵那の反論が女の怒りに火をつけ、止めるどころか怒りを助長させてしまう。

「……何言ってんの? それでもあんたがやったことに変わりはないでしょ? 一回だけ? だから何よ……自分も騙されて不幸だみたいな言い方はやめてよ!」
「でも……!」

 その瞬間、彼女が握っていたスマホを大きく振り上げたーーその瞬間、恵那は意識を失った。
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