When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
「『その女のこと知ってるか? 飲み過ぎるたびに男にお持ち帰りされて、誰とでもすぐに寝るって有名なんだぜ』」

 恵那は血の気が引いた。

「何それ……信じられない……」

 そしてハッとする。

「まさか……その言葉を信じたの……?」

 返事のない様子から、泰生がその言葉を鵜呑みにしたのは間違いなかった。

「……恵那をホテルに連れて行って、ベッドに寝かせて……悪い考えが浮かんだよ。誰とでも寝るなら、俺とでもいいんじゃないかってさ。眠る恵那を、俺は自分の勝手な欲望のまま抱いたんだ……でも痛がる恵那を見て、自分の不甲斐なさを感じて……」
「……私を一人残していなくなったの?」

 泰生は力なく頷いた。

 恵那はようやくあの日の事実を知ったが、悲しみに項垂れた。誰とでも寝る女だと泰生に思われていたことが、感情を更に助長させる。

「泰生は……私がそんな女だって信じたんだね……」

 涙が溢れて止まらなくなる。だから私を避けてたんだ……。

「どうして……? さっき泰生が言ったじゃない……私が痛がってたって……違う意味には捉えてくれなかったの……?」

 泰生は勢いよく振り返り、苦しみを帯びた表情で恵那を見つめる。それから申し訳なさそうに恵那の頬に触れた。

「まさか……初めてだったのか……?」
「そうよ……私は初めてが泰生とで嬉しかった……。それなのにあんたは誤解したまま勝手にいなくなって、取り残された私は、泰生に拒絶されたんだって思うとずっと苦しかった……」
「……ごめん……俺、とんでもないことをした……」

 泰生は恵那を力いっぱい抱きしめる。その背中に腕を回し、恵那は泰生に体を預けた。

「泰生のこと……ずっと好きだったんだよ。幼稚園の時からずっと……なのに私のこと無視し始めたでしょ? だからあんたに近寄れなくなったの……」
「それは……恵那が急に女に見え始めて……そばにいるのが恥ずかしくなったんだ。自分の気持ちの変化がわからなくて、どうしたらいいのかわからなくて、避けるしかなかった……」
「……いつ頃のこと?」
「小学五年の臨海学校の時」
「……何かあったっけ?」
「……肝試しでペアになった時、恵那が俺の腕に絡みついて、その、お前の胸が……それに水着も……」

 恵那はキョトンとした顔で泰生を見上げる。

「初耳」
「言うわけないだろう……こんな恥ずかしいこと」
「……言って欲しかった」
「俺の性格を知るお前なら、それが無理なことだってわかるはずだ」

 耳まで真っ赤にしている泰生を見れば、確かにその通りだ。感情を露わにするのを嫌がる泰生に、そんなことが言えるわけがない。
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