紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

どんと来いって、私は一体何を言ってるの……!


いくら極端に恋愛経験の乏しい私だって、今ここで"お持ち帰り"の意味するところがきっと純粋に飲食店で使われるそれだけの意味ではないだろうってことくらい、さすがに分かっているつもりだ。

何しろさっき、『続きはまたあとで、ね?』と言われてしまっている。


それなのにあの答え方じゃまるで……!


「……本当にもう……。自分で仕掛けておきながら、結局僕はいつも灯ちゃんにしてやられるなぁ」


火を噴いた顔を思わず両手で覆えば、苦笑を滲ませたその声と共に隣から伸びて来た大きな手が私の頭を優しく撫でた。


「……ふ、"策士、策に溺れる"、ですね、恭加?」

「ははっ、うん、やっぱり灯ちゃんには敵う気がしない」


空気を揺らすような笑みをこぼした瀬戸さんが面白そうに和泉さんに言葉を投げれば、そう答えた和泉さんの顔は見えていないのに、その声だけでくしゃりと破顔した彼の表情が瞼の裏にありありと浮かんだ。


「じゃあ遠慮なくお持ち帰り、させてもらうね?」


この羞恥に火照る顔はもう全然上げられそうにないけれど、それでも私がこくりとひとつ頷けば、頭上にあるその手はポンポン、と、まるで"ありがとう"とでも言うかのように優しく弾んだ。







「ーー恭加。深町さんがすぐ温まれるように、先にお風呂を用意してきては?駐車場に車を入れたら私が部屋までお連れするので」


そうして車に揺られること10分ほど。


車の中からチラッと見上げただけでは最上階を拝むことが出来ない高さのスタイリッシュなタワーマンションの前で車を停めた瀬戸さんが、フロントミラー越しに和泉さんを伺う。


「ん、そうだね、それがいい。灯ちゃんはあとから朋くんとゆっくりおいで」


それに同意した和泉さんは、「……は、はい……」という今にも消え入りそうな私の返事を聞いてから「じゃあまたあとで」と優しく笑んで頭をひと撫でし、先に車を降りてエントランスの中へと消えていった。



そして私だけを乗せた車を地下駐車場に停めた瀬戸さんは、


「ーーさて、深町さん。部屋に向かう前にここで少しだけ、お話ししていきませんか?」


今度はフロントミラー越しに私を見つめ、(おもむろ)にそう言ってニコリと微笑んだ。
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