神様のイタズラ?〜名字と恋と運命と〜
ーーとうとう、出たのよ!

 仏田(ぶっだ)マリアの右手には、おみくじが強く握られていた。
 
 マリアの勢いよく発せられた声は、オフィス中に響き渡り、周りの社員たちが一斉に仕事中の手や足を止め、マリアの方を振り向いたのであった。

 隣の席に座る、後輩の京子が小声でマリアを宥める。
「仏田先輩、声大きいですって」
「だって念願の大吉だよ?」
「いや、わかってますよ」
「私がどーんだけ、毎朝並んでこの大吉のおみくじを引くのに苦労した事か」
「わかってますって。で、恋愛の項目の処には何て書いてあったんですか」
 
マリアは京子のこの一言を待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、口元からは歯が見えた。

「“真緑の男に縁あり”だって」

 話半分で聞いていた京子は、さっさと仕事に戻っていた。パソコンに向かって、先方への挨拶状のメールを作成していたのだ。

 マリアは一瞬眉をひそめ、京子が向き合うパソコン画面を遮るように、おみくじを京子の真前へと見せつける様に差し出した。

「“真緑の男に縁あり”だって」

 マリアはちょっと嫌味を込めてもう一度、繰り返した。
 京子は仕方なしに、おみくじを手に取り恋愛の項目を指でなぞりながら、文字を追った。マリアにしっかりと読みましたよアピールである。

「随分と具体的に書かれてるんですね」
 京子は感心をして、思わず呟いた。
 
 それは、最近SNSやメディアで恋に悩める女子たちの間で話題になってる東京1の恋愛運最強神社のおみくじであった。
 
 大吉の恋愛項目に書かれた人が運命の人と言われ、その日中に出会えればその人と結婚が出来ると言われていた。
 
 京子は現在彼氏がおり、恋愛に困ってはいない立場であるからというのもあるが、こういう女子が簡単に喰いつきそうな、恋愛成就の流行りには、元々どっか冷めた考えであり、内心小馬鹿にしていた。

 しかし、意外と具体的に限定されて書かれた"真緑"の男に、流行る理由も納得出来た。
それにーー。

「ね?」

 マリアは、京子がしっかりと恋愛項目に目を通した事に満足し、満面の笑みで京子の顔を覗いていた。

 京子は、巡らせてた思考をマリアに遮られたことに若干腹が立った。マリアの問いかけに対し、わざと無言で満面の笑みを作り、覗き返してやった。そして、自分の手元にあるおみくじを丁寧に畳み、ゆっくりとマリアに返した。 

 マリアは京子の笑顔が嫌味と気付かず、呑気にペチャクチャと真緑とはどの程度から真緑色に認定されるのかなど、独りで話し始めていた。(もっぱら、マリアは京子に対して話してるつもりであるが)

 京子は、マリアの浮かれた独り言には聞いちゃいなかった。

 こうゆう恋愛成就必至系の女子が、流行らせたものに、何処か抵抗があった京子は、思ってたよりも特定されたメッセージのおみくじに感心した事を認めたくなく、さっさと話題を切り上げようとした。

「頑張ってください」と一言添え、もう一度ニコッと大袈裟に口元を引き上げた。故に、頬肉が大きく持ち上がり、細くなった目元でしっかりとマリアが納得する様に見てあげた。

 そして、パソコンの画面に向き直し、キーボードをパチパチと音を立てながら、さっさと挨拶状の作成の続きを打ち始めたのだった。

 マリアは未だ独りで、頭の中の想像を広げて話していた。
 とにかく濃〜い緑色の髪の毛に染めた人が運命の人なのかなぁ?いや、パンク系はタイプじゃないんだよねー。真緑の靴とか!ありえるけど真緑の靴履くって、どんなセンスか心配だわー。などとにかく次から次へと独りで喋っていた。勿論、マリアにとっては京子に対して話しているのだが。

「やっぱりさあ、社内でコレだ!って言う真緑の人見なかったー?」

京子からの返答はない。
マリアの流れる様に溢れ出る想像力が止まった。流暢に喋ってたリズムが崩れて、我に返る。

 京子は先方への挨拶状のメールを作成し終え、送信をクリックした。

 いつもの事だか、温度差の違う京子にムッとした。今日こそは、努力の結晶で引き当てた、この奇跡の様な大吉に、京子も一緒になって喜んで、盛り上がってくれるかと思っていたのに。

 真横に座っている京子ときたら、たかが1通の挨拶状を作成して送っただけで「ふぅ」と息を吐く始末。その顔は無表情。
 尚更、ムッと来た。
「ちょっと、全く聞いてないじゃん!」
「え?だって長いんですもん」
右肩を回す、京子。
「そりゃ、長くだってなるわよ。






 
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