極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
物心ついてから両親以外の人の前で初めて泣いた。
どんなことがあっても泣かないって決めていたのに、いくら止めようとしても止まらなくて涙を流し続けた。

「ごめん、キツイことを言った」
謝ってくれる太郎さんに、ブルブルと頭を振る私。

ゆっくりと立ち上がった太郎さんが私を抱き上げて、膝の上に座らせた。

「ねえ、この格好恥ずかしいわ」

向かい合って座ろうとすると膝を割って跨ぐしかなくて、さすがに恥ずかしい。

「誰も見てないよ」
「太郎さんが見てる」
「気にしないで」
「そんなぁ」

私を座らせたままお腹にそっと手を当てる太郎さん。
その手がとっても暖かい。

「まだ時間はあるんだから、美貴さんにとってもこの子にとっても一番いい方法を、もう一度考えてみよう」
「はい」

その後、太郎さんが子供の父親は誰だと聞いてくることはなかった。
もしかして自分の子だと確信しているのかもしれないけれど、言及されないことに私は内心ホッとしていた。
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