極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「美貴さんも、人のこと笑っている場合じゃないでしょ」
いきなり背後から声がした。

「え、どうして?」

そこにいたのは明日の夜まで大阪出張に行っているはずの太郎さん。

「美貴さんが心配でもう一日予定を早めて帰ってきたんだ」
「そう」

きっと無理をしたんだろうなと、少し心が痛い。

「ところで、玄関の鍵が開けっぱなしだったのはどういうこと?」
「ああ、それは」

普段から戸締りには気をつけなさい。
1人で夜道を歩くのもだめです。
もっと警戒心を持ちなさいって、口がすっぱくなるくらいに言われている。
1人暮らしが長い私はつい「大丈夫よ」と気安く言うから太郎の機嫌は良くない。

「すみません、それは僕がいきなり来たせいです」
慌てて駿がかばってくれた。

「ねえお姉ちゃん、こちらはどなた?」
不思議そうに太郎さんを見る桃花。

あああぁ、面倒くさいことになったぞ。
どう説明すれば一番穏便にこの場を収められるのか私はそのことだけを考えていた。
< 134 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop