極秘懐妊だったのに、一途なドクターの純愛から逃げられません
「ところで嫌がらせの件だけれど、泣き寝入りして我慢ばかりしていてもダメよ。続くようなら主人に頼んであげるからすぐに言うのよ」
「わかってる。それに泣き寝入りする気はないわ。せっかく苦労して始めた店を潰す気もない。だからね、ランチの配達を始めたの」
「配達?」
泉美がキョトンとした顔をした。

「これよ」
私は始めたばかりのチラシを泉美の前に置いた。

元々、店の半分に雑貨を置いてもう半分はカフェスペースとして簡単なランチも出していた。
とはいえ難しい調理はできないから、仕入れ先のベーカリーから調達したパンやサンドイッチと、地元農家の朝どれ野菜をサラダにしてうちの店のコーヒーや紅茶と一緒に出す程度だけれど。
この度サンドイッチとサラダをランチボックスとして近くのオフィスに配達することにしたのだ。

「へー、いいじゃない」
「でしょ」
我ながら名案だと思う。

ただ問題は人員の確保。
配達用に新たに人を雇うわけにはいかないから、配達できるのは自転車での移動圏内で前日までの予約制とした。

「ふーん、これならロスも出ないしいいと思うわ」
さすがに泉美も褒めてくれた。

「と言うわけで、私は配達に行ってくるから」
「え?」

「もうすぐ沙月ちゃんがくるから、少し留守番しておいてよ」
「え、私?」
「お願い。今日はバイトが一人急に休んじゃったのよ」

こうなったらなり振りなんてかまっていられない。
使えるものは友人でも使わなくちゃ。

「悪いけれど、お願いね」と一方的に手を振って私は店を駆け出した。
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