迷信を守らず怪異に遭遇し、必死に抵抗していたら自称お狐様に助けてもらえました。しかし払う対価が、ややエロい件についてはどうすればいいのでしょう。
第一章

本家からの招集(一)


 アブラゼミの声がヒグラシに変わる頃、私は幼い頃に住んでいたこの町へ戻ってきた。

 後ろを山に、前を海にと囲まれ、狭い山あいばかりのこの町は人口が二万人くらいしかいない。

 朝までずっとやっているコンビニもなければ、ガソリンスタンドすら二軒しかない。

 東京からこの町へ戻って来ることが決まった時、母は首を縦に振らなかった。

 どうしてもココには行きたくないと。


「でもだからって、なにも離婚なんて……」


 母は離婚という名でもって、自由を手に入れた。

 それに引き換え私は、友達や母のいるあの都会から、有無を言わせず父と一緒に祖母の住むこの町へと連れ戻された。

 父は嫌がる私の意見など聞くこともなく、仕方がないの一言だ。

 この町に友達はいない。

 元々、三歳になる頃、父の仕事の関係で東京へ移住したからだ。


「お父さん、なんでずっと黙っているの」


 縁側で、うちわを扇ぎながら裏の林を父はただ見つめていた。

 祖母の家に戻されてから今日で二日目だ。

 仕方がないと言って連れて来られて以来、父は何をするでもなくずっとこうやってゴロゴロしている。
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