淋しがりやの足跡
「……おい」
「何?」
「天気、傾いてきたぞ。雪が降る前に帰ったほうがいい」
言われて窓の外を見ると、確かに灰色の空が広がっている。
「そうね。洗濯物も干しっぱなしだし、帰ることにするわ」
コートを着て、マフラーを巻く。
帰り支度をするこの時間が、私は嫌い。
この病室に史郎さんをひとり、残していくなんて。
(ここは史郎さんの居場所じゃないのに)
でも史郎さんはニコニコと笑って、
「これ」
と、私にノートを差し出した。
私が史郎さんに頼まれて買ってきた、黄色いノート。
「交換ノートをしよう」
史郎さんの口から意外な単語が出てきて、私は思わず耳を疑った。
「交換ノートだよ。学生の頃にやったことがないか?」
「あるには、あるけれど……。え?史郎さんもあるの?」
「オレはないよ」
史郎さんは笑って、
「教師だった頃、生徒達がやっていたんだよ」
と言う。