淋しがりやの足跡
史郎さんがいなくなる。
そのことへの不安感や恐怖心に。
ひとりになる淋しさに。
途方に暮れるくらい。
私、もう……。
「行恵」
史郎さんが目を覚まし、娘を呼んだ。
行恵は素早く史郎さんのそばに寄る。
「父さん、何?何かほしいの?看護師さん、呼ぼうか?」
「……母さん、母さんと話してもいいか?ふたりで」
行恵は私を見てから、
「うん、わかった」
と言って、
「ちょっと外の空気を吸ってくるわ」
と、スマートフォンと財布を手にして、病室を出て行った。
私は史郎さんのそばに寄って、
「何?史郎さん」
と、声をかけた。
ベッドに寝たままの体勢で、史郎さんは左手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
私はその手をとり、握る。
「交換、ノート……、楽しかった」
「そんな、まだ続けましょうよ。史郎さん」
史郎さんはニィッと笑って、
「もう、書けないから」
と、震える右手を軽くあげて言う。