絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
■節タイトル
プロローグ ~Ich und Du~
■本文
 傲慢で、冷徹で、人の心を踏みにじる、最低な外科医。
 最初の印象はそれだった。
 勝手な彼の都合で迫られた契約結婚。
 当然『愛』なんてあるはずがなくて、絶対にこの人だけは好きにならないと思った。
 そのはずなのに――。
 どうしてだろう。
 医師として真剣に向き合おうとする眼差しや、内に秘めたやさしさ、彼のひたむきな情熱、その中にある意外な脆さを見つけるうちに、私は心から……この手を離したくないと、願ってしまっていた。
「おまえは、俺のことが嫌いだったはずなのにな」
 彼は、皮肉げに微笑む。
 悔しいけれど、言い返せない。その代わりに、私は『愛』の宣戦布告をする。
「私は、あなたに巻き込まれたんだから、責任をとって幸せにしてくれなきゃ許さない」
 彼はただ黙って、私の唇を塞いだ。
 それは、身を焦がすほど熱く、一生忘れられそうにない、たしかに愛に満ちたキスだった。




■節タイトル
1 最悪の再会?
■本文
「お見合い?」
 真下(ました)美(み)澄(すみ)は思わず電話の主に問い返した。
 三月中旬――。
 東京に桜の開花宣言がされる頃。
 勤め先の保育園が経営難のために閉園し、行き場を失った美澄が保育士を続けるか転職するか悩んでいた、ある日のことだった。
『そう。聞いてちょうだい。お相手はねぇ、東雲(しののめ)総(そう)合(ごう)病(びょう)院(いん)の院長のご子息よ。とっても優秀な外科医で、とっても素敵な美男子だから期待していいわよ』
「は、はぁ」
 電話の主は、英(はなぶさ)八重(やえ)――その名の通り、八重の桜が似合う、和風美人である。彼女は、父方の叔母・冴(さえ)子(こ)の親友であり、美澄が学生の頃から慕っている女性だ。
 そんな八重からから久しぶりに連絡をもらって嬉しかったのも束の間。突然持ちかけられた縁談に美澄は戸惑っていた。
『美澄ちゃんの好みにも合うと思うのよ。前に、どんな男性が好みか教えてくれたじゃない?』
「私の好み? えーっと。なんて言ってたかな」
『年上で、優しい人がいいけれど草食系じゃなくて、ちょっとつれないところがあって、でも肉食系でドキドキさせてくれる人がタイプーだとか。こういうのなんていうんだっけ。ドンピシャ、そう、ドンピシャだと思うわ』
< 1 / 117 >

この作品をシェア

pagetop