ライム〜あの日の先へ

ないものねだり

※※※




鈴子はひとけのない病院の廊下で、椅子に座っていた。


ーーまさか、零次くんと再会するなんて。


一条琴羽。
初めて聞いた時から、その名前は鈴子にとって特別な名前だった。
零次の大学の同級生で、彼がずっと憧れている女性。
零次が琴羽の名前を上げるたびに、胸の奥が焼き付くような痛みを感じていたことを思い出す。


鈴子が勤務するプリスクールを創設したのはその一条琴羽だ。
パンフレットで、プリスクールの沿革の欄に創設者として名前があって知った。

偶然とはいえ、驚いたものだ。

現在は運営から外れていると聞いていたが、まさか保護者として子供を預ける側にいたとは思いもしなかった。

ひと目で仕事ができるキャリアウーマンだと感じていた。仕事は忙しそうだけれどハルトのことを本当に大事にかわいがっていることも知っている。

でも。

そういえばハルトの父親には一度もあったことはなかった。
迎えに来るのは母親の琴羽と、祖母がほとんどだ。

ーーどう考えても社長業が忙しいんだよね、零次くんは。


< 120 / 231 >

この作品をシェア

pagetop