ライム〜あの日の先へ

交錯する関係 零次

※※※

時は少し戻る。
水上医師が凛の病室から去ったあと、琴羽は零次に尋ねた。

「五嶋くんどうしたの?仕事は?」
「あぁ、忘れ物を届けに。ちょっと抜けてきた」
「忘れ物?
あぁ、そうか。私が預かればよかったわね」

琴羽は零次が手にしている凛の水筒に気づいた。

「鈴子先生は今、ご自宅なの。ごめん、まだ五嶋くんの連絡先を伝えられてなくて」
「え?でも今、ご家族の方は主治医の先生の話を聞きに行ってるって……」

ふと零次は先ほどスタッフステーションで見かけた男性の後ろ姿を思い出した。

ーーやっぱりあれがこの子の父親か?
いや、一成ということもありえる。

「ねぇ、ハルトくんのママ、おカバンのなかでブーブーってなってるよ?」
「え?」

凛に教えられて琴羽があわててスマホを見ると、会社からメールが届いていた。

「うわ、トラブル発生。鈴子先生に会いたかったけど、すぐに戻らなくちゃ。
リンちゃん、またね。早く良くなってね。ハルトと待ってるから」

「うん。ありがとう、ハルトくんママ」

病室を出ようとして、琴羽はぼんやりと立っている零次の腕を掴んだ。

「昨日会ったばかりの知らない男の人と二人きりじゃ、リンちゃんにストレスよ。
水筒は私が預かるから行きましょう」

凛に笑顔で手を振り、琴羽は零次とともに病室を出てエレベーターに向かう。
するとスタッフステーションが見えてくる。
気になって零次はちらっと視線を向けた。
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