ライム〜あの日の先へ
零次はあっという間にロサンゼルスの街に慣れていった。そして、昔のように望田家にもしょっちゅう出入りするようになり、客間に泊まっていくことさえあった。


「……!!」


この日も泊まり込んでいた零次は、リビングで一成と一緒に日本の経済新聞を見ていた。
その新聞の記事に、零次がいつになく動揺していた。


「零次?どうした?」
「大学のときの同級生なんだ、これ……」

零次が指さした記事。鈴子も覗き込んだ。



[輝く女性経営者、光英プリスクール一条琴羽代表]


そこには美しい女性の写真。さながら女優のような華やかさ。同性の鈴子でさえハッと息を飲むほど美しい。


「そうか……やっぱり琴羽はすごいな」


琴羽。
零次が名前で呼んだ。しかも写真を見つめる零次の目。見たこともないほど優しい。


「もしかして、元カノだったり?」

尋ねながら鈴子の胸はうるさいほどに鳴る。

「とんでもない。とてもじゃないけど俺なんかじゃ釣り合わない。
琴羽は『世界の一条』の御令嬢なんだよ」

世界の一条といえば、日本経済を牽引する巨大なグループ企業だ。

「やっぱり零次の交友はすごいな!」

一成が感心したように声を上げる。

「ということは、『五嶋』のライバルじゃん」

一条グループの屋台骨は『一条商事』一成と零次の勤める五嶋商事のライバルだ。



面白くない。
零次の顔。彼女が好きだと書いてある。

鈴子はこの時初めてはっきりと気づいた。
あんな風に優しくうっとりと見つめてほしい。

零次が好きだ。と。
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