ライム〜あの日の先へ
第三章 ライムライト〜脚光をあびる人

一週間の恋人

事態が急転したのは、春の訪れを感じる頃だった。



「日本に帰ることになった」

ここ2日、職場で零次の姿を見かけないと一成が心配していた矢先だった。
突然、夜遅くに望田家にやってきた零次が開口一番そう告げた。

零次の顔は青ざめ、目がひどく落ち窪んでいた。おそらくしばらく寝ていないのだろう。

「やっぱり、あれか?東南アジアのテロの……」
「ああ。直撃だ。もはや、五嶋の古い体質では立て直しは不可能。
あの人は俺に全ての責任を背負わせて、逃げるつもりなんだ」

零次は大きな影を落とした表情で一成を見た。あの人というのは零次の父である社長だ。

「俺はこの重圧に負けそうだ。俺はトップに立てるような人間じゃない。出来だって良くないし、人望があるわけじゃない。
俺はただのスケープゴートなんだ。
一成。これで、終わりだ。
いままでありがとう。もう、こんな俺に関わっていたら駄目だ。お前は自分の道を突き進め。お前ならきっと成功する」

「何を言ってるんだよ。
零次、どうして最初から諦めるんだ?零次は優秀だよ、俺は零次にならできると思う。むしろこの状況を打破できるのは零次しかいない。
大変だということは充分わかっている。でもやりがいはある。
零次は、男ならだれでも一度は憧れる窮地に現れるヒーローになれる。
諦めないで戦ってほしい。
でも、具体的にどうしたらいいかは俺には聞かないでくれよ。俺はただの平社員だ」

一成の言葉に、零次は小さく笑った。

「一成だけだよ、そんなこと言ってくれるのは。頑張りたくなってしまう。
でも俺に求められているのは、あの人の、五嶋社長の身代わりなんだ。
五嶋の名を背負って、矢面に立って死んでこい。社長にはっきりと言われた」

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