ライム〜あの日の先へ

最後の思い出

五嶋商事ロサンゼルス支社。

「望田さん」

午後になって予定通り出勤した一成を零次が呼び止めた。

「あぁ、お疲れ様です、支社長」

一成はいつもと変わらない穏やかな空気を身にまとい、笑顔で返してくれた。それがかえって不気味だった。

「あの、少し時間いいか?話が……」
「五嶋支社長、日本からお電話です」

鈴子のことを話そうと切り出した言葉は、電話をつなぐ伝言に遮られてしまった。

「電話、どうぞ」

一成はそう言って自分のデスクに向かっていく。慌てたのは零次だ。

「あ、いや、電話は折り返しに」
「急を要する大事な電話かもしれない。大丈夫、支社長が言いたいことはわかっています。
零次になら俺の大事な妹を託せる。どうか、鈴子をよろしく頼みます」

そういうと一成は立ち去った。

何も言わなくてもわかっている。一成の背中がそう語っている。
零次はその背中に静かに頭を下げると、電話の受話器を手に取った。


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