たとえ、この恋が罪だとしても
第11章 撮影本番
 本番の撮影は、紗加さんのご主人所有の鎌倉の洋館で行われた。

 高台に建つ瀟洒(しょうしゃ)な建物で、庭園から湘南の海が一望できる絶好のロケーションだった。

 1月半ばにしては温かく感じるほど、穏やかに晴れていた。
 海面も艶やかな絹布で覆われているように静かだった。
 この風景と同じで、わたしの心中も意外なほど穏やかだった。

 10日ほど前のあの雨の日は……
 紗加さんへの妬みと安西さんへの恋心と俊一さんへの罪悪感が綯交(ないま)ぜになって気持ちはかき乱れ、とても人前でポーズなんてとれないと思っていた。

 次の日、何度も断りの電話を入れようとした。
 でも待子さんに話を聞いていただいて、冷静さを取り戻すと、あの日の紗加さんの言葉が記憶の底からよみがえってきた。

 撮影をすっぽかしたら大変な迷惑をかけることになってしまう、ということを。

 もしかしたら、安西さんの一生を左右してしまいかねない、とまで紗加さんは言っていた。

< 107 / 182 >

この作品をシェア

pagetop