たとえ、この恋が罪だとしても
 通話が切れたあとも、電話を持ったまま、しばらくぼんやりしていた。

 出張のことを気にしなかったわたしがもちろん悪い。
 でも、明日がんばれよって、一言はげましてほしかった。
 わたしが真剣に合唱に取り組んでいることを、俊一さんはわかってくれていると思っていた。

 ふと、灰色の紗幕(しゃまく)が頭のなかを覆った。
 もしも……結婚したあともこんなふうだったら?

 俊一さんは多忙で疲れて寝るだけの毎日。
 そしてわたしは知らない土地で、相談や気晴らしをする相手もなく、ひとりっきりで過ごすことになるのだろうか?
 
 ううん、きっと疲れていて虫の居所が悪かったんだ。
 いつもはあんなふうに話を遮ったりするひとじゃない。

 気のせいだ。誰でも環境が変わるときは不安になるもの。
 わかってほしいというのは、わたしのわがまま。
 わたしの方こそ、彼の気持ちをもっと考えなきゃ。

 そう思おうとしたけれど、一度浮かんだ不安の影はなかなか消えてくれそうになかった。
< 17 / 182 >

この作品をシェア

pagetop