たとえ、この恋が罪だとしても
「……でも、どうして、そこまでわたしにこだわるんですか?」

「うん? あのね、おれの頭のなかにもうイメージが出来上がってるんだ。きみ以外ではだめなんだ」

安西さんは地面に頭がつくかと思うほど頭を下げた。

「お願い、うんと言って。承知してくれたら針千本飲むよ。いや、百本、うーん、5本ぐらいで許してくれるとうれしいけど……」

 本当に、子どもみたいな人。
 とても世間に名の知られたカメラマンだなんて思えない。

 こんなふうにこの人に頼まれて、断れる人がこの世界にいるんだろうか。

 もう答えは決めていたけれど、わたしは少しだけ意地悪したくなって、言った。

「じゃあ5本でいいけど、今ここで飲んでくれます?」
「えっ?」

「カバンにソーイングセットが入れてあるんです。針5本ぐらいなら入ってると思うから」

 今度は安西さんがちょっと焦った顔になった。

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