How To Love
王子様ならいいけれど



「さむっ…」

年末寒波ってやめて欲しい。仕事なのよ、私…フェイクファーの白い帽子をかぶり、ダウンコートの首もとをしっかりと閉じて信号待ち中、銀行の自動ドアに映る自分を見て

「冬はおばあちゃんに似てる…」

襟の高いダウンの中で呟いた。

「おはようございます」

すでに営業開始している輸入食品スーパーの従業員出入口から、誰もいないだろうけれども毎回声を掛けて入って行く。

ここのオープニングスタッフとして大学生の時にアルバイトを始めて以来6年間通い続けるお気に入りの店。正社員としての就職も店から声を掛けて頂いたが、その時期、祖母の世話をしていた私はアルバイトとして続けさせてもらうことに決めたまま現在に至る。

「あっ、樹里ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「ごめんね、保育所から娘が熱出してるって連絡あったから迎えに行くわ」
「大変だ…今日はもう28日ですけど病院お休みじゃないですか?」
「今日までかな?それも調べてダメなら休日診療所だね」
「外すごく寒いですよ、気をつけて」
「ありがとう。もしかしたら明日休まないといけないんだけど、樹里ちゃん出勤時間ずらして閉店までお願いできる?」
「いいですよ。店長と相談しますね」

更衣室で慌ただしく会話を交わし、社員さんが一人帰っていく。更衣室はあるが制服があるわけではなく黒エプロンがあるのみ。でもロッカーがあるのはありがたい。白い帽子を脱ぎ、つやつやのロールパンのような色の髪をひとつにまとめると、更衣室を出て店内への扉を開けた。
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