How To Love
王子様と進む



仕事は9月末で退職される方から引き継ぐ。結婚で遠方に住むことになるからという仲本さんは、もう自分には必要ないからと来客者を覚えるための手書きの手帳を下さった。

「中には声を掛けてくる人、誘ってくる人がいるけど、大抵の人はどこでも声を掛けてる挨拶みたいなものよ。ちょっとしつこいかもっていう注意する人には…これ…数人マークをつけたけど、ここにはカメラも目立ってあるし、この下にはこれ見て…このボタンを押したら総務で鳴るのね。男性社員が来ることになっているから大丈夫よ。遠慮なく押せばいいから」
「わかりました」
「名前はね、徐々に覚えられるから。向こうも初対面の者に無茶は言わないわ。基本的には今からパソコン見てもらうけど…」

仲本さんはパソコンを私に少し向けると

「社員さんから、このスケジューラに来客予定は入るの」
「社名とお名前が入っているんですね」
「そう。だからこれ以外の人はアポイントメント無しということになる」
「はい」

とても丁寧に初日から1週間は教えて頂き、実際に仲本さんの応対を見る。2週目からは、もう一人の受付担当、前田さんと私の二人で受付に立った。前田さんは1週間有給休暇を取っておられたあとで、まだ会っていなかった私にもお土産を下さった。私より10歳年上の既婚者で、健康美が目立つ明るい方だ。

「前田さんと原田さんが並んでいると肌の白黒がはっきり目立つわね」

月末を待たずに明日から有給消化に入られる仲本さんに言われると

「オセロコンビで頑張ります、ねっ?」

前田さんが私に向かって両手でガッツポーズを作ったので、私も小さく同じようにして返した。
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