ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
「そこまで許されているのなら、決して神使様はお前から離れたりはしないよ。でも、今の世の中、この世のものではないものが見えてしまうのも苦労するからね。神様がお前の目を閉じたんだろうね」

 そう言って祖母はしゃがみ込むと、私の目を見つめて言った。

「いいかい、神使様のことは、家族以外には言ってはいけないよ。いつかお前の夫となる者にも、出来ればしばらく黙っていた方が良い」
「言っちゃ駄目なの?」
「いつか言うときは来るだろうよ。だが、すぐに言っては駄目だよ。ばあばとの約束だ」
「分かった」

 あれから二十年ほど経って、気配だけのクロのことは結構忘れることもあって、ほぼ空想上のお友達みたいに思っていた。それが変わったのは、慶一さんと出会ってから。というか、正確にいうと、慶一さんと体を繋げるようになってからだ。

 お付き合いを始めて、彼のお家にお邪魔して、彼ご自慢のワインを飲んで気持ち良くなって、そしてまあ致した後、彼の腕に包まれていたら懐かしい気配を感じたんだ。最近、すっかり存在感の無かったクロが、ぼんやりと影の様に揺れていた。

 それからも、慶一さんとの関係が深まるにつれてクロの姿が次第に明確に見えるようになってきて、そして結婚二年目。そろそろ子供が欲しいねってことで避妊はしなくなったら、もうクロはそこらのワンコと同じくらい、見えて当たり前の存在になっていた。

 なんですかね、これ? 慶一さんの体液成分、あれ? 精分? が私の中に取り込まれると、超常現象が起こってしまうの? ちなみに過去に付き合った彼氏とはそんな現象は起きなかったんだけど。

 そして問題は若干あって、クロはやっぱり実体を持たない存在なので、私以外の人には見えなかった。当たり前といえば当たり前か。

 実家はそういう職業だから私のことは理解してくれているし、父は宮司だけにさすがにクロの気配は分かるらしい。でもやっぱり本来は見えてはいけない存在らしくて、徹底的に父にも見えない仕様になっている。そして実家の佐藤家から独立した我が飯島家では、見えないクロもそれなりに遠慮しているらしい。慶一さんが居る時は不在にしていたり、居ても部屋の隅で大人しくしている。だから夫にはクロの存在は伝えていないのだけれど。

< 6 / 21 >

この作品をシェア

pagetop