ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
 しばらくすると私の気配を察してか、人ならざるモノがじわりと滲み出る。

 元は亡くなった家主と推定するけれど、今やもはや人では無い。鬼とか物の怪とか呼ばれる、これはいわゆる、悪霊。

 私はそれを目の前にして、少しの間考えた。これがもっと禍々しいものになってしまったら、私の手には負えなくなる。これは私がなんとか出来るギリギリ限度のもの。今ここで処理できれば、私が暮らすこの街のささやかな平和は保たれる。

「ってことなんだよね、クロ?」

 後ろを振り返ってクロにそう聞いたら、奴はすました表情で見返した。どうでも良いから早く始末しろってことらしい。

 クロ可視化現象と共に湧いたもう一つの現象とは、このことだ。クロだけじゃ無い、私は本来目に見えないはずのモノが見えるようになってしまった。

 まあそこまでは良いのだけれど。いや、本当は良く無いんだけれど。ほら世の中、霊感強くて幽霊視えてしまう人って割合いるし。それにそもそも見えていないだけで、昔からなんとなく気配は感じていたし。

 問題は、気配だけだったらなんとなく避けてお終いにしていたものが、見えるようになってしまったが故に、対処しなくちゃいけなくなった。ってとこだ。

 うちの神社は地域の氏神様をお祀りする「氏神神社」で、それ故に、我が家は代々この土地を宮司とその家族として守ってきた。いくら嫁に行ったとは言え、こんな悪霊が自分の居住エリアに居て、見て見ぬ振りは出来ない。

 そしてそんな私を全力で後押ししているのが、神使であるクロ。

「こんな非現実的な秘密、とてもじゃ無いけど慶一さんに打ち明けられない……」

 思わずボヤいたら、後ろからフンフンと鼻息が聞こえた。

「分かりましたよ! 今やりますって!」

 ちょっとヤケ気味にそう叫んで、私は悪霊と向き合った。
< 8 / 21 >

この作品をシェア

pagetop