青春の備忘録
 「田川さん、上原に挨拶してやってくださいー!」
 「お前、何言ってんだよ、そういうのいいって言ってんだろ」
 始業式から数日経った朝の廊下に、2人の主将の声が響いた。
 「上原くん、おはようー!」
 私は、少し戸惑いながらもニッコリと、そして爽やかに挨拶をする。
 もちろん、良太からの返事はない。
 もう、良太との関係が修復されることはおおよそ期待していなかった。
 これはあくまでもパフォーマンスだ。
 文化祭でギターを弾いてから、あるいはその前から、私は否定できないほど、校内で有名な人間になってしまった。
 廊下を歩いていると見知らぬ人に声をかけてもらうことがあるが、それは裏返せば、誰かが私のことを見ているということ。
 自分の事情だけで誰かを無下に扱うことはできなかった。
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