青春の備忘録
 「ストーカー」
 前後に何かしらの文脈があったはずだが、私はこの単語しか覚えていない。
 おそらく話からして、昨夜のことだと見当はついていたが、十分に衝撃的すぎた。
 しかし私は、この言葉を発した時の彼の目を今でも覚えている。
 未だかつてないほどに、目が泳いでいた。
 スイスイ、スイスイと泳ぎ続けていた。
 あの目を見た瞬間、私は「不本意だ」と分かった。
 周囲も、予想だにしていない様子だった。
 彼が何かを言っている間に私の頭はこれだけのことを考えていたが、嘘やハッタリ、理不尽が嫌いな私は、即座に抗議した。
 「私はストーカーなんてしてない。そもそも私は昨日、塾に行かなきゃで急いでたし……悪いけれど、上原くんがあの場にいるなんて、少しも思わなかった。とにかく、いたとしても気づかなかったんだよ、私は帰りの電車に乗るためにとにかく急いでたんだから。あの駅前の交差点でしょ?確かにあそこで人影を見た。でも、あれが上原くんだなんて、微塵も考えなかった。てっきり寮に帰ったものだと……とにかく、私はストーカーなんかしてないから、撤回して」
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