手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「趣旨はわかりますけど…佐井にはご褒美になりませんか?」
「別に…実らないだろうからならないだろ。なったってかまわない」
「はぁ…朱鷺様、いいんですよ、やります…やりますとも…でもね、日都銀行のことだけでも仕事が増えた今ですか?」
「今じゃないと趣旨は活かせませんね」
「西田さんも鬼ですか?」
「いえいえ、朱鷺様のお遊びに賛同したまでです」

右手人差し指と中指の2本を揃えて頬骨を叩くようにするのは、遠藤の考える時の癖だ。

「これ…私から直接佐井ではなく、企画の女の子使っていいですか?」
「女の子ねぇ…そこは遠藤に任せる」
「承知いたしました。朱鷺様や美鳥様から遠いところからコンタクトを取った方がいいと思います」
「ん、それでいい。あとは、蜷川だが…」

美鳥を亨さんの娘だと世間に知らせる段取りを西田に伝える。

「おっしゃる通り、ゴールデンウィーク前の茶会が最適でしょうね」
「亨さんへは今から連絡して、出来れば今夜にでも会って俺から説明とお願いをしてくる」
「はい。旦那様へは?」
「出国したばかりだろ?1週間後に帰国してから伝える」
「わかりました。私もいろいろな思いはありますが…美鳥様がやっと旦那様の本当の娘になられるということに一番感動しております。本当に大切にしてこられたので」
「西田も同じだ。美鳥は西田のことも父親だと思っている」
「はい…ありがたいことです。私は娘を嫁に出す気持ちと…朱鷺様ともご一緒に長く暮らしましたからねぇ…息子が結婚する気持ちとを同時に味わうということです」

そう言う西田の顔はとても穏やかで今から億という金を動かす緊張感は全く感じさせなかった。
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