手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「ファミリーや若いグループには向かないかもしれませんが趣向はいいと思います」
「宿泊客層はファミリーは少ないですから、それほど問題でないかもしれませんよ?」
「カフェレストランから庭に出られないとどうしようもないですか…」
「カフェレストランはNinagawa直営なので企画としては早く進められる話ですけどね」

西田さんと遠藤さんは意見を出してくれるが、朱鷺はそれを見ているだけだ。

「美鳥」
「はい」
「北海道へ行って、実際にホテルの庭を見てから支配人に相談してみたらどうだ?美鳥が一人で北海道へ行けるならだけどな」

やっと口を開いた朱鷺は愉しそうに言う。

「行けるに決まってるでしょ?フライトするだけだもの」
「じゃあ、決まり。美鳥は明日から北海道へ出張。支配人には俺から連絡しておいてやる。美鳥と8月の企画を早急に決めろ、と。とりあえず2泊部屋を取っておく。フライトは自分のいい時間で取れ。ゴールデンウィーク後だからすぐに取れるだろう」
「朱鷺様、美鳥様をお一人で…ですか?」
「西田さん、私、北海道で友達と待ち合わせしたことがあるでしょ?大丈夫ですよ」
「西田さん…子離れして下さい。朱鷺様が美鳥様を羽ばたかせようとされているのですから見守りましょう」
「私、行ってみたいので…朱鷺、ありがとう。西田さん、心配しないで下さいね」
「美鳥様がイギリスへ行くと言われるより心配です」
「そこが不思議なんですよね…私、もう日本語も問題ないし…何でだろ?」

皆が食べ終わった器をワゴンに乗せていつもの通り食堂へ行こうとすると

「美鳥様はご自分のフライトの予約をして下さい。私が返却してきます。それから今日は1時間早く退社して下さい。私がお送りしますので、荷造りをして早くお休みに…」
「くっくっ…美鳥、西田の言う通りにしてやれ。そうでないと西田も一緒に北海道へ飛ぶぞ」
「それはダメです」

私は西田さんの言った通り、いつもより早くマンションへ帰ったのだった。
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