手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「イギリスでも雨が続くことはあったから、グリーンが濡れているところもイングリッシュガーデンの雰囲気を壊してないよね」
「ああ…この紅茶美味しいな」
「でしょ?ここの紅茶美味しいよね」
「車の往来や忙しない人の動きがないところもいい」
「皆、先に美術館へ行ってからカフェを利用するからこの時間帯はこの庭を独り占め」
「二人占めだ」
「ふふっ…そうだね。朱鷺も気に入ってくれて良かった」

カフェのオープンより早く開放されるイングリッシュガーデンを朱鷺と手を繋いで20分ほど散策してから、美味しい紅茶と、パンケーキ、スコーン、サンドイッチをシェアして食べる。

先日朱鷺は私を湾岸Ninagawaの鉄板焼レストランへ連れて行ってくれた。二人ともわざわざNinagawaで手を繋ぐようなことはしないけれど、それ以外のところでは手を繋ぐことはある。そして私は、手を繋いで歩く朱鷺がとてもゆったりと穏やかな雰囲気を醸し出すのが好きだ。

「紅茶講習はどうなんだ?」
「基本的な知識…茶葉の種類とか淹れ方を教えてもらうだけだけれど楽しいよ」
「そんなこと美鳥はもう知っているだろ?」
「うん、イギリスでいろいろやったね。でも…日本では民間の資格しかないらしいんだけど、それを持った人たちがどういう感覚なのか知るのは楽しいよ。この間一日体験に参加した時の講師と昨日の講師では少し違うことをおっしゃるしね」
「なるほどな…華道や茶道でも流派があるからな」
「そうだね。私は資格取得を目指しているわけではないから楽しく話を聞いて、美味しいお菓子の話も聞けるし…秋の紅茶ペアリングのアドバイザーになって欲しいと思える人と出会えるかなぁと思いながら、あちこちの単発の講習…半年コースとかでないものを選んで参加しているの」
「ふっ…仕事だな」
「美味しい仕事。今日はデートだけどね、朱鷺」

私がそう言うと彼は目元を緩め、ゆっくりと私の頬を撫でた。
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