手を伸ばした先にいるのは誰ですか





その日の夕方、まだ執務室にいる時間に敦子さんから電話があった。

‘美鳥ちゃん、婚約発表したの?’
「あっ…婚約発表?そんな話が伝わってきましたか?」
‘もううちの子だって認識されてるでしょ?だからだと思うんだけど‘ご当主とのご婚約おめでとうございます’とか‘ご結婚はいつですか?’って立て続けに3件の問い合わせがあったのよ’
「ああ…ごめんなさい…‘いずれ’とは言ったんですけど…」
‘私も‘ありがとうございます。いずれ’と答えておいたわ’
「さすが敦子さん」
‘もっと誉めてくれていいわよ。じゃあ‘いずれ’を繰り返せばいいのね?’
「はい。今日、朱鷺と二人でいるときに五百旗頭様とお会いしたんです」
‘なるほど…五百旗頭様からなら、噂はいいコースを辿っているはずよ’
「そんなコースあるの?」
‘あるある、大ありよ’
「…そう…」
‘心がひん曲がった人から人へ伝わる‘邪悪コース’があるのよ’
「怖いです…ね」
‘おっそろしーわよ。でも五百旗頭様のお仲間は大丈夫’
「良かった…じゃあ、しばらく面倒かもしれないですけどお願いします」
‘わかったわ。で、いずれっていつ?’
「あははっ、そうですよね…敦子さん。明日かもしれないですけど10年後かもしれません」
‘いずれ、に間違いないわね。亨さんにもちゃんと伝えておくわ。娘のことで話が食い違ったら‘邪悪コース’の格好の餌になるからね’

敦子さんはケラケラと笑いながら電話を切った。

「もう敦子さんのところへ話が行ってんのか?」
「うん、五百旗頭様からはいいコースだって。別に‘邪悪コース’っていうのがあるらしいよ」

私が朱鷺に敦子さんの話を伝えると、西田さんがとても良く分かると答えた。
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