手を伸ばした先にいるのは誰ですか




川崎さんは現在、宴会部門のチーフだ。宴会部門というのは、営業担当が承った宴会や結婚式などの予約を引き継ぎ、幹事のお客様と準備を進める。お客様のリクエストを伺い、会場のレイアウトや料理の内容、演出、進行などを決めていかなければならない事務能力、コミュニケーション力、提案力などさまざまなスキルが求められる仕事だ。そしてもちろん会場設営から当日のオペレーションとサービスまでを行う。お客様に料理やドリンクを提供するだけでなく、会場が大きくスタッフの人数も多いと、進行表を把握しスタッフをまとめ指示を出すことも仕事のひとつだ。ここに来る前は沖縄で管理営業部門の企画課にいた。彼女は各店舗の弱いところへ異動になっては結果を残す、俺よりずっと長くNinagawaで働く女性だ。

「やはりこれなら立て続けに企画を投入することで、とりあえずの活性化が見込めると思います。あとは社長のおっしゃる‘平々凡々’としたところですよね。そこを変化させないと再び落ち込む」
「徹底してリゾートホテルという意識を持たせることで変化が生まれると考えています」
「そうですね。策は?」
「沖縄と石垣島の支配人と北海道新旧店支配人のシャッフル」
「いいところまでが落ちるリスクも含みますね」
「川崎さん、沖縄と石垣島の支配人をよくご存知でしょう?シャッフルせずに交代だけでいけるならそうします」
「どちらも完璧な支配人ですが、急に北海道ですからね…数日お時間を頂けるならちょっと探りを入れておきますが?」
「よろしくお願いします」

そこへフロントの様子を見に行っていた西田が戻ってきた。

「結局、美鳥様と遠藤支配人が並んでフロントに立っておられました。もう捌き終えると思います」
「原因は?」
「団体様が重なったことと、コンシェルジュが時間の掛かる対応で一人のお客様にかかりきりだったようです」
「特に問題はないな」
「ございません」
「じゃあ、私は試飲へ戻って美鳥さんを待ちます」
「この資料は川崎さんのアドレスに送っておきます」
< 42 / 268 >

この作品をシェア

pagetop