手を伸ばした先にいるのは誰ですか




「おかえりなさい、美鳥さん」
「あ…聞こえました…よね?」
「大丈夫ですよ、試飲会でよく聞く言葉です」
「すみません…柏木専務、こちら宴会部門チーフの川崎です。川崎さん、こちらオークワイナリーの柏木専務です」

二人が挨拶を交わすのを見てから

「柏木専務、試飲のコツってありますか?」

と聞いてみる。わからないことはプロに聞くのが一番だ。

「人それぞれですが、最初の30分間だけは集中してワインのテイスティングをして、自分なりに評価を残す。評価というのはそのワインを自分が好きかどうか。好きであればどの部分が好きなのか。‘この桃みたいな香りが好きだ’とか‘この樽の風味が好きだ’など思うがままに。‘この強い酸味は苦手だ’などその逆もしかりです。そして残りの時間はワインをゆっくり楽しむ。水を準備してあるので、少し口に含んで口内をクリアにしてから次のワインに移るのも大切かと思います」
「とても参考になります」

私がそう言う間にも川崎さんは次のスパークリングを飲んでいる。

「美鳥さんはワインはお好きですか?」
「はい、好きです。ワイナリーの方に好きというのは気が引けますが…」
「先日24歳と伺ったのでワイン歴は4年?」
「イギリスにずっといたので6年です」
「なるほど、ヨーロッパの多くの国が18歳から飲酒オーケーですよね」
「そうなんです。イギリスに12年いる間一度も日本には帰りませんでしたが、休暇はフランスやイタリア、スペインなどで過ごしたので、どこでもワインは美味しくいただいていました」
「それなら、お好みの物をこの中から探すという気持ちでお楽しみ頂くといいのでは?」

仕事と思うから味がわからないんだ。この中から好きなもの…うん、探そう。
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