手を伸ばした先にいるのは誰ですか




朱鷺も西田さんも私に甘い。西田さんの奥さんの冴子さんも西田さんと同じく私を蜷川のお嬢さま扱いをするという点では甘いが、時に厳しく接してくれるのがありがたい。

形ばかりのお嬢さまになったあと、幼い私の面倒を見てくれたのは冴子さんと6歳年上の朱鷺だ。

旦那様、朱鷺の父親は会えば可愛がってくれたし年がら年中お土産やプレゼントをくれたが、何しろ忙しくあちこちのNinagawa Queen's Hotelを飛び回っていたから毎日は会えない。そしてその旦那様と西田さんは行動を共にしていた。

奥様、朱鷺の母親は私との接点のない人だった。だが、様々なレセプションパーティーなどには必ず私のドレスを誂えて一緒に連れて行ってくれた。奥様とプチお揃いに誂えられたドレス姿の私は注目の的だった。大人ばかりの空間で奥様の後ろで着飾るだけ着飾り、ものも言わず微笑んで立っている女の子。何ともシュールな光景に、時間とお金を持て余す人たちが群がる。小さな時には何とも無かったが、8歳を目前にそのパーティーに拒絶反応を示してしまった…自分では無意識でわかっていなかったが…

次のパーティーのドレスを作ってもらい試着する際に、お腹が痛くなって下痢をする。‘可愛いドレスよね?’と奥様に言われて‘はいっ’と元気よく言いながら首を横に振る。冴子さんや朱鷺がそれに気づいて旦那様に報告したらしい。

すると、旦那様は奥様に私をパーティーに連れて行かないように伝えて下さりパーティーへは行かなくなったが、今度は奥様が私をキッズモデルに応募したらしい。そこで盛大な夫妻喧嘩、朱鷺も混ざっていたらしいので家族喧嘩が勃発したという。

後で聞いた話では、何かにつけて派手なことが好きな奥様と、不器用なほど自らが動き回って働く旦那様とは、この喧嘩以前から折り合いが悪かったそうだ。
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