手を伸ばした先にいるのは誰ですか




朱鷺はイギリスの大学卒業後、イギリスと日本の二重生活をしながら仕事をしていた。その彼には西田さんが常に付きサポートをする。そしてまだイギリスで学生生活を送っていた私は、もう十分に一人で生活できるくらいにイギリスに馴染んでいたが、朱鷺は私の一人暮らしを絶対に許さなかった。そのため、冴子さんがイギリスで私と暮らしてくれたので彼女には感謝しかない。

西田夫妻をはじめ、朱鷺、旦那様には本当に感謝している。幼い時に一人ぼっちになった私が何不自由なく生活できただけでなく、十分な勉強をさせてもらい、海外生活までさせていただくという、誰もが出来ることではない経験をさせて頂いた。

帰国してからの私は、蜷川の屋敷には戻らずマンションで生活している。蜷川の使用人さんたちに‘お嬢様’‘美鳥様’と言ってお世話していただくのは、私の本来の立場ではなく申し訳ないと思うから屋敷には戻らなかった。

朱鷺は屋敷と私のマンションで半分ずつといった生活をしている。

「西田、先に戻って。俺、今夜はマンション」
「かしこまりました。が、朱鷺様…」
「わかってる」
「わかってると言われても言わずにはいられません。くれぐれも行動にご注意を」
「ああ」
「美鳥様がお困りになる事態は避けないといけません」
「わかっている」
「最近、外でもお二人の距離が近いので気を付けて下さいませ」
「美鳥がさっさと結婚を承諾しないのが悪い」
「ふてくされても可愛くありませんよ、美鳥様なら可愛いですが…美鳥様のお心もよくお分かりでしょう?」
「もちろん。俺が美鳥のことでわからないことはない」
「でしたら、美鳥様が悪いなどと言わずに現状を安全に守る努力をして下さい」

執務室で朱鷺と西田さんのやり取りを聞きながら、私も気を付けなくちゃと思う。蜷川を…朱鷺を守る行動と生き方をすると決意した通りに振る舞うべきよ、美鳥。
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