手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「また誘ってもいい?また誘うよ、すぐにでも」

とても楽しい時間だったと告げたあと美鳥に言うと

「ありがとうございます。私もとても楽しかったです」

と少しかしこまった返事がある。

「それは…yes?」
「はい…ありがとうではダメか…失敗しました。慣れないことで…すみません」
「こんなにチャーミングな美鳥には、デートの誘いはたくさんあるだろ?」
「いえ、全く…たいてい知り合うのが仕事を通してですし…」
「蜷川令嬢を誘う勇者はいない?」
「先日一人だけ…」
「それって俺?」
「yes」
「美鳥」
「はい」
「誤解のないように言っておくけど、普通は俺だって仕事で知り合った女性を誘わないよ。だって後々面倒くさいことになったら嫌だろ?」
「それはそうですよね」
「でも、後々のことを考えるよりも美鳥は誘いたい女性だったね…それほど美鳥の会話も仕草も表情も、どれも魅力的だと思う」
「ありがとう、龍。嬉しい」
「もうね、そういうところがいいよ美鳥」
「…嬉しい?」
「全部。誉められて‘私なんて全然’とか言う人が多いだろ?」
「日本人はそうですよね。私は誉められたら嬉しいってすぐ言っちゃう…仕事中もなんです。西田さんに誉められたら‘やった、誉められたぁ’って執務室でも言ってる」
「目に浮かぶよ。次の休みはいつ?決まってるの?シフト?秘書は違うか…」
「私は基本的には日曜と月曜が固定で休みです」
「じゃあ、明後日の日曜は休み?」
「はい」
「俺と一日デートしてくれる?」
「記念すべき初デートです…お願いします」

蜷川の名前が大きすぎてこれまで誘う男がいなかったのか?今夜会うまでに1ヶ月ほどかかったが、明後日また会えるのは嬉しい。タクシーで彼女を送った先は蜷川邸ではなくマンションで、明後日の朝迎えに来ると言って見送った。
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