ただそれだけ

いらっしゃいませ③

今日もまずは準備から開始した。

不足しているものはないかも確認した。

カウンターとテーブルは徐々に埋まっていった。

ドアの開く音がし、カウンターの端に1人の女の子が座った。

「いらっしゃいませ」

僕がそう言うと彼女は辺りを見渡し、何でもいいから一杯もらえるかしら?と言った。

僕は店長にモヒートを注文した。

彼女の前にナッツを出した。

ご飯は食べたのか聞くと、お腹は空いていないとのことだった。

彼女はモヒートを一口呑むと、タバコに火を付けた。

僕は注文を受けては厨房に行き調理した。

「あなたは料理を作れるのね?」

彼女は特に何の感情もなく言った。

仕事だからとだけ言った。

「この前のことだけ忘れたことにしてくれない?」

「僕も何も覚えていないんだ」

彼女は僕の目を見て、下を向いた。

「わかったわ。それが本当なら良いんだけど」

「良かったら僕の奢りで何か作るよ」

彼女は首を振った。

彼女はその後何杯か注文をした。

先輩があの人知り合いなの?と聞いてきたので、同じ大学ですとだけ伝えた。

良かったら今日は彼女とお話したら?私が厨房をメインでするからと言われたが、仕事は仕事なのでと言った。

彼女は黙り込み何か考えているようだった。

彼女はペスカトーレを注文した。

「私が払うから気にしないで」

彼女は少し酔っているようだった。

ピッツァを彼女の前に出すと、しばらく眺めてピザカッターで分けた。

「うん、男性が作ったにしては美味しいわ」

慣れれば誰でもこれくらいはできるのだ。

食べ終える頃には彼女も酔いがまわっていた。

「あなた彼女を家まで送ってあげたら?後は私に任せて。平日だからなんとかなるわよ」

僕は一度断ったが先輩が店長に相談をし、店長からも彼女を送るよう言われた。

「今日はそのまま上がっていいよ」

たしかに彼女は1人で帰れないこともなさそうだったが、もしものことを考えてマンションまで送ることにした。

帰り際先輩は僕の方を見てウインクをした。

彼女にタクシーを呼ぶか聞いたが、歩いて帰るとのことだった。

4月といえども夜は少し冷え込んでいた。

彼女が転ばないよう僕は注意した。

無言のままマンションまで着くと、彼女は何も言わず部屋へと戻った。

僕も帰ることにした。
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