今宵、幾億の星の下で

真相

火事から一年が過ぎ、玲は拓馬の別荘のあった場所へと向かっていた。
拓馬の別荘は完全に取り壊され、築き上げていた菜園も跡形もない。

建物の跡地に花束を捧げ、手を合わせる。

一部焼け焦げているがあのベンチは残っており、玲は静かに腰を下ろした。


(これから何があっても、おれを信じてくれ。説得力はないかもしれないが)



拓馬の言葉が脳裏に流れる。

『フェレース・スコンベル』も、なくなってしまった。
店舗では模造品が飾られているが、本物は未だ行方不明のままである。

「嘘つき。でも信じてる」

長年勤務した園芸店を退職した。

事情聴取後、玲は園芸店に拓馬との関係を噂されるようになり、いずらくなったためだ。
睦は必死に引き止めようとしたが、玲自身のけじめをつけるためにも、辞める決心をした。

宝石会社『フェレス・スコンベル』の新社長は市毛元支店長が就任し、新たな道を歩き始めている。

思い出のあるこの土地に別れを告げるため、別荘のあったこの場所を訪れたのだった。

(さようなら……)

決心をした、その時。
足音が聞こえた。

ベンチを立ち上がり、その方向に顔を向ける。
帽子とマスクをした背の高い男性だった。
リュックサックを背負い、登山客のように思ったが、玲に近づいてくると、一メートルほどの距離で止まる。

「玲。久しぶりだな」

男性は帽子とマスクを外した。

「拓馬……!?」

驚く玲に近づくと拓馬は見下ろす。

「突然ですまない、驚かせたな。おれの言葉を信じて、待っていてくれたんだろう。ありがとう……逢いたかった」
「え、あ……ほ、本当に拓馬なの?」
「ああ。残念ながらな。全部話す」

二人は並んでベンチに座る。

「世間的には、おれは死んだことになっている」

拓馬は話し始めた。

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