今宵、幾億の星の下で

呪いの宝石

玲の反応をみた女性店員は柔らかに微笑する。


「お付けになるだけでも、いかがでしょう?お似合いになると思いますよ」


慣れているのだろう、女性店員は気を遣ってくれた。
ありがたい、しかし恐れ多い言葉に玲は断ったが、店員はどういうわけか薦めてくる。


「では……お願いします。実は今日、誕生日でして。記念につけてみたいです」
「まあ、それはおめでとうございます。すぐに、ご用意いたしますね。……と云いたいところですが、宝石のコンディションによっては取り出せないのです。ご了承くださいませ」


先程フラレたばかりに『おめでとう』はきついような気もしたが、彼女には何の罪もない。
善意好意で申し出てくれたのだから、感謝すべきだ。

なにより『宝石のコンディション』とは……?

鍵のかかったショーケースから、手袋を付けた女性が慎重に布張りのトレーに乗せた。

「えっ……」
「?」

それだけの作業なのだが、女性が驚いたような声を出した。
宝石のコンディション問題がクリアしたのだろうか。


「失礼いたしました。わたくし、ここの支配人を任されております、市毛(いちげ)と申します。どうぞお見知りおきを」


この場で試着するのかと思っていたが、玲は試着用の別部屋に通され、高級感のある化粧台の前に案内された。
スーツ姿の男性店員が椅子を引き、玲は腰を下ろす。

柔らかく玲の体重を受け止める感触が、量販店の物と全く違う。

「座り心地のいい椅子ですね」
「ありがとうございます」

男性店員がにこやかに返事をすると後ろに下がり、先ほどの女性店員がアクセサリー三点を運んできた。

なぜ自分がこんなにもてはやされるのか、甚だ疑問だった。

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