陰謀のための結婚
「それより、新しいホテルは」と、話題を変える。
「具体的な話は、ここではちょっと」
苦笑する彼が、人差し指で頬をつついた。
それは艶かしい夜を予感させるというよりも、子ども同士の戯れ合いのような雰囲気で。
「香澄ちゃん、いい顔してる。なんか妬けるな」
「妬けるって、誰に」
彼は目を伏せ、カップを軽く回す。エスプレッソの芳醇な香りが、こちらまで漂ってきて鼻をくすぐった。
「お母さん。俺では、そういう顔は引き出せなかったなあって」
「あの」
彼は顔を上げ、「ん?」と首を傾げた。その姿はまぶしくて、胸に甘酸っぱい痛みが広がる。
「大好き、ですよ」
消えそうな声でつぶやくだけで、胸が苦しい。
「うん。俺も」
彼はふわりと笑みを作って、指先でそっと頬に触れた。