陰謀のための結婚

「その、無意味とでもおっしゃりたい恋をしたのは、どこのどなたですか?」

「恋、だと⁉︎」

"恋"

 この浮ついた単語のあとに、昨日初めて会った香澄を思い浮かべる。

 全身の毛が逆立ったのかと思うほど、一瞬で体が熱くなった。

「なに思い返してるんですか。顔がニヤけてますよ」

「うるさい。観察するな」

 直輝からの視線を払うように手を振り、ふと気がついた。

「直輝、お前にお姉さんか妹っていたか?」

「いえ。俺、きょうだいは……。え? もしかして姉に会いました?」

 直輝は三矢直輝。三矢不動産社長の息子だ。

「歳が離れたってわけでもなさそうだが」

 直輝は俺の弟と同級生で、小学生の頃からよく知っている。直輝から姉の話を聞いた覚えはない。

 そして今さらながらに、ある矛盾点に気がつく。

「直輝、今年で二十八だよな?」

 弟と同じ歳。さすがに間違えない。

「ええ、まあ」
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