陰謀のための結婚

 朝食に舌鼓を打ち、浴衣を選んで着付けてもらう。そしてロビーで待っている彼に歩み寄る。

「お待たせしました」

「いや、それほど待ってはいないよ」

 振り返った彼は目を丸くして、それからその目を細めて言った。

「すごく似合ってる」

 白地に紺色の麻の葉の柄が涼しげな浴衣を選んだ。髪も(ゆわ)いてもらい、気持ちも上がる。

 恥ずかしげもなく褒める智史さんに、私も本音を漏らす。

「智史さんも似合っています」

 濃いグレーの浴衣に、薄い色の帯が映える。

「さあ、行こう」

 促され歩き出すと、手を取られドキリとする。

「迷子防止と男避け」

 そう言って歩き出す彼に、なにか抗議したいのに、口はパクパクするばかりで声にならない。

 旅館を出ると、すれ違った女性が彼を見て「わぁ」と声を上げた。

 すごく気持ちはわかるのに、いい気持ちはしない。つい彼に少しだけ体を寄せる。

「私も女避けになりますか?」

 か細い声に、智史さんは何故だか吹き出した。
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