もふもふ、はじめました。
 吉住課長の無言の圧に負けて、私は白状した。

「元彼? 別れた男に、なんで会うんだ?」

「少し、込み入った理由がありまして」

「……僕も同行しよう。別れた男なんて、何をされるかわからないだろう」

「えっと、それは大丈夫です。岸くんが一緒に来てくれるって言ってて」

「なんで、岸が行くことになっている」

 一段と声が低くなって、威嚇するような音がした。私はその勢いに飲まれそうになりながら、なんとか自分を奮い立たせて言葉を絞り出した。

「……その、元彼が岸くんに仕事上の嫌がらせをして」

「だから、何で岸が?」

「……偶然、岸くんと二人で一緒に居たところを見られてしまったんです。もうあの人とは別れていて、全く関係ないはずなんですけど……」

「ふーん。二人で居た、ね?」

 吉住課長は、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「……あの、焼き鳥屋さんで偶然会っただけですよ?」

 なんだか誤解を招きかねないと、慌てて私は言った。

「焼き鳥の日の事か。二人で飲んでいたのか?」

「……そうです」

 あの時には、まだ吉住課長とは付き合ってはいなかったんだけど。何だか悪いことをしたような、そんな気になってしまう。

「わかった……呼ばれたから、もう切るよ。おやすみ。千世」

「あ、吉住かちょ……」

 スマホの画面を見ると、もう通話が切れてしまっていた。

 やっぱり……怒らせてしまったのかな。私は迷いに迷って白猫のスタンプで『会いたい』って送って、既読になるのを確認してから、返信が来るのを待ちながら。

 その夜は、いつの間にか眠ってしまった。
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