腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 ぐっすり眠って、目を覚ますと、いつの間にかリクさんの体温はなくなっていた。
 しかし、昨日の夜の水族館でのリクさんの一言一言が、昨日の夜のリクさんの温かさが、何度も思い出される。

「そういえば写真……」

 呟いて枕もとのスマホを手に取る。
 水族館の最後、スマホで二人の写真も撮った。帰り際、近くにいた係員の方が写真を撮ってくれると言ったのだ。

 スマホを開くと、そこにはリクさんと私が写っている写真があって、あれは間違いなく夢なんかじゃなかったとほっとした。

 写真に映る瞬間、リクさんが強く私を抱きしめて、私が驚いて目を白黒させている。
 そんなわけでスマホに残る写真は、私の顔だけがなんとも間抜けに写っているのだが……。

 でも、そんな私を隣で見ながら、リクさんは楽しそうな笑顔で写っていた。

「リクさん、私があたふたしてるの見て喜んでる……やっぱり意地悪だ」

 そうは言っても、そのリクさんの笑顔を見て微笑んでしまう。

 いつものリク先生ならありえないような……
 子どもみたいな、いたずらっ子のような笑みだ。

 本当にいつもの先生とは、全然違う人のように感じる。
 私は少しでもリクさん自身のことを知れているのだろうか……。

 そう思って、もう一度スマホに写るリクさんの顔にそっと触れた。

 この意地悪な人を。この子どもっぽい笑みの人を。
 先生のため、というより、一人の男の人として、前よりももっと知りたいって思い始めてる。

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