黒曜の戦場

12.芸術はお好き?



嵐のような熊さんは、森(部屋)へと帰って行きました。

あの熊さんには白い貝殻の小さなイヤリングを拾ってもらってもお礼に歌って踊れる気がしない。



というかお礼に歌おうぜって言っちゃう森のくまさんのお嬢さん、シンプルにメンタル強すぎん?

熊さんも「え、ワイも歌うん??」てなるじゃん??

熊さん♂♀わかんないけど。





午後の作業を終えると、外はもう赤く色付いていた。

湿り気の帯びた風に乗って、金木犀の甘い香りが鼻腔を撫でる。

山では紅葉が色付き、赤トンボが飛び交い、静かな秋を迎えていた。



「芸術の秋」



ぽつり、送られていく車の中で呟く。

赤から紫へとグラデーションを描く空、コントラストの美しい雲と陰。

そういえば雨林さんだろうか……私が貼った空のグラデーショントーンで、鮮やかな夕焼けの雲を削っていたのは。

漫画は白黒なのに、それが鮮やかな夕焼け空なのだと、不思議なことに解るのだ。

濃淡でしか表されていないのに、その奥には確かに色付いた景色が広がっている。



漫画というは芸術というのか、文学というのか、何とも表し難い位置づけにあるような気がするけれど。

新しいジャンルの扉を開いたという意味では、私も芸術に手を加えられたのかもしれない。

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