甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
真っ青なまま、オフィスを出て行く女を見て
「あの人…大丈夫かな?ふらついてない?」
心配顔の紫乃の椅子を俺に向けて向かい合う。
「紫乃、ごめんな。嫌な気分にさせた、嫌な思いをさせた…自分のしたことに言い訳はしない。悪かった」
「壱」
頭を下げた俺の膝をトントンと手で軽く叩いた紫乃を見ると、困った様子で瞳を揺らしている。
「気分のいい話ではないけど…相手のあることだから相手によって起こり得ることだよね…私にもあったしね」
ああ…自分に起こったことを思い出しているのか…
「今をきちんとね…二人の間で今がきちんとしていれば…それでいいんじゃないかな?」
「…紫乃に救われた」
「大袈裟じゃない?私は…あのとき…壱に生かせてもらったと言えるくらい救われたけどね」
「大袈裟ではない…同じことだと思う。過去を曝すという点で同じ」
「じゃあ、おあいこで…次々登場ってことがなければ…」
「それはないな」
俺がそう言うと全く疑う様子もなく微笑んだ紫乃は
「ロスタイム挽回しないと」
とパソコンに向き直る。その紫乃を横から抱きしめると額に唇を落とす。
「1分だけ…俺にくれ」