甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》







「壱くん、大丈夫だった?」

ファミレスで早めの食事をしながら真麻ちゃんが聞く。

「うん。でも、飲みすぎるなと触るな触られるなって…何度も…」
「耳タコ?」
「うん」
「お触りの店じゃないってわかってるのにね。自分だってきれーなお姉さんに囲まれて飲むくせに」
「ふふっ…夢唯さんも綺麗なお姉さん?真麻ちゃんはよく会うの?」
「たまに自宅の掃除を頼まれるからね」

店のことは完璧なのに日常的な家事能力は欠落してると、真麻ちゃんは夢唯さんのことを評し、店の2階にある自宅の掃除を頼まれるそうだ。

「だからお兄ちゃんと3週間会ってない夢唯さんが、私とは毎週会うってこともあるのよね。私はアルバイト気分でおこづかいもらってるんだけど…私、ずっと体調もいいしアルバイト生活は終わりにして就職しようと思ってる」
「そうか。就活はこれから?」
「うん。お兄ちゃんや夢唯さんに相談すれば絶対にすぐ就職先を紹介してくれるのはわかっているけど、内緒で自力でやろうと思ってるの。だから紫乃ちゃんも壱くんに内緒ね」
「わかった。壱に言ったら壱が紹介するかまこちゃんに言うかだもんね」
「そう」
「私はこっそり真麻ちゃんを応援するよ。何でも連絡してね。聞くだけだろうけど…」
「ありがとう、紫乃ちゃん」

真麻ちゃんはグラタン皿にカピカピについたチーズをスプーンで擦りながらにっこりと笑った。
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