甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
「髪、これでいいのか?」
綺麗にまとめ上げてもらった髪を指差して壱が私とスタッフの方に聞く。
「今日の装いですと…髪に飾りをつけると主役になられてしまいますのでこのままで」
「夢唯さんにも言われてたの。だからこれでいいんだよ、壱」
壱はヘアアクセサリーがないことが気になったようだ。
「紫乃が良かったらいい。10分ほど席を外してもらっても?彼女にジュエリーを着けたい」
「かしこまりました」
えっ?スタッフさんたち、かしこまりました…なの?居たってジュエリーなんて着けられますが?
「紫乃」
鏡に向かい座った私の前に、壱は静かに正方形のジュエリーケースを3つ並べた。
鏡の前の小さなスペースに3つのジュエリーケース…3つ?パールのピアスは間違いないんだけど…3つ?
「どれがいい?」
「どれ…って…見ないで選ぶの?」
「そう。開ける順番を紫乃が決める」
順番を決めるということは…全て開ける?どういうことだろう?でも悩んでいる時間もない。私は一番右側のケースを指差した。