甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





昨日までとは違う目で流を見てしまう俺がいる。

「代表?何か?」
「いや…何でもない。ただ何となく、ここのスタッフは彼女がいるのかと…ちょっと考えてた」
「半々といったところではないでしょうか…こうしてクリスマスにお客様と言えど女性と過ごす仕事ですからね」
「流もそうだったのか?ずいぶん前に別れたと聞いたとき、それが理由だった?」
「それもありました。付き合い始める時点で私の仕事をわかっているのにおかしな話です。あとは金銭トラブルもありましたので」
「それもたまに聞くな」
「代表は夢唯さんと長いですよね?」
「長いな」
「結婚はされないのですか?」
「しない。俺も夢唯もそこは求めてないな」
「そうですか、よきパートナーには変わりありませんからね。でも私は、こう見えて結婚願望があるんです」
「…そうなのか?」
「はい。年々その願望は強くなっています」
「結婚に何を求める?」
「部屋に帰ったときに灯りが点いていて味噌汁がある…それだけです。私の育ったのとは正反対のものを求めているのだと思います」
「…もしそれが叶う相手なら結婚してもいいと?」
「はい。でも大抵の女性は私に派手な華々しいことを求めてこられるので難しいと思っています」
「いい相手がいたら紹介する」
「代表の紹介なら金銭トラブルなどの心配なく信用出来ますので歓迎しますよ」

流がホールに出ると、俺は真麻にメッセージを送った。

‘味噌汁を特訓しろ。それから流’

これでとりあえずはわかるか?この忙しい日に電話はしていられない。
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