甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





ここから一番近いビジネスホテルの部屋の予約と、カフェオーナーへサンドイッチの注文を済ませる。もっといいホテルを取ってやりたいが、紫乃が遠慮すると同時に不審がるだろう。

「紫乃、とりあえず1週間駅前のビジネスホテル取った。サンドイッチは肉は今度な。今日は消化できなさそうだから玉子サンドにした。一切れでも食え。それから1週間分の身の回りの物の買い物。質問は?」
「…部屋には一度も帰らない?」
「無理だろ?帰せない。持って来たいものあるか?もうその部屋引き上げろよ。狂った奴らの出入りするところから離れろ。持ち物も全て買い替えだ」
「引っ越し…買い替え…持って来たいもの…捨てられないものはあります」

引っ越しには同意するようだ。それは好都合。奴らは俺が社会的抹殺してやる。

一皿だけ注文したサンドイッチの一切れを食べた紫乃は

「…お腹がすいてきました」

と僅かに頬を緩めた。食べ始めてから空腹に気づいたんだな。

「じゃあ、半分食って」
「長谷川さんが…」
「あとで腹へったら買い物中に何か食うからいい」

ゆっくりとだが玉子サンドを半分食って、熱い珈琲を飲んで少しは落ち着いたか?

「紫乃がここに来てすぐの頃、俺がブログに何でも屋のこと書いたのを覚えているか?」
「はい」

珈琲カップを両手で持った紫乃は、何の話かと顔を上げた。
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